都市計画や交通施策を考えるときに、人や車、物の流れを無視するわけにはいきません。安全で快適な街づくりのためには、可能な限り正確な交通量や人の流れを予測し、建物の位置や道路の幅などを検討していかねばならないからです。国土交通省は以前から、定期的に交通量や人の流れを調べる交通量調査を行っていますが、この調査はどのようなことに役立ち、どのような方法で調査されているのでしょうか?今回は交通量調査の中でも、人や車、物の移動状況を調べるOD調査の概要から調査結果の活用方法などについてご紹介していきます。OD調査の概要と実態OD調査とは、Origin(出発地) − Destination(目的地)調査の略です。人や車、物が移動する起点(出発地)と終点(目的地)を一対として、一般的には道路の交通量や自動車の流れを把握するために行われます。OD調査を実施するのは国土交通省のほか、地方自治体や民間の調査会社、NEXCO東日本などの高速道路の管理会社も定期的に調査を実施しています。OD調査で調べられる内容は、国土交通省であれば出発地・目的地のほか、トリップ長(移動距離)、運行目的、乗車人員、使用燃料、積載品目、積載重量などがあります。また、街づくりや道路計画策定のため、地方自治体から民間の調査会社に委託される場合もあります。この場合には、特定地域内の交通量や人流(人の移動量や方向)を含む、さまざまな形態の移動物が調査されます。OD調査の概要は「OD調査にも活用可能!位置情報データで人流や車の流れを把握する方法とは?」の記事でも詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてください。PT調査(パーソントリップ調査)とは何が違う?人の移動に特化した調査には、PT調査というものもあります。OD調査も人の移動を調査しますが、OD調査とPT調査は何が違うのでしょうか?PT調査とOD調査の一番の相違点は、PT調査は都市、もしくは特定地域における人の移動を調査するという点です。調査では「どのような人が(年齢、性別、職業など)」「どのような目的で」「どのような時間帯に」「どのような交通手段で」移動しているかを調べていきます。人の一日の動きを詳細に調べることにより現在の交通実態を把握し、将来の交通計画や街づくりに役立てることがPT調査の目的です。人や車、物の移動にフォーカスし、比較的広範囲で調査を行うOD調査に対し、PT調査は人に特化し、かつ調査範囲(地域)も限定的であるといえます。OD調査の方法とは?では、OD調査はどのような方法で行われるのでしょうか? 現在のOD調査には、官民合わせて以下のような調査方法があります。人的リソースの活用無作為抽出した車両オーナーへのインタビュー(訪問調査)や、郵送による調査票の送付・回収によって結果を得る方法です。国土交通省が行うOD調査で古くから用いられている調査方法ですが、調査や集計に長い時間がかかることや、人的コスト(調査員の人件費)、物理的コスト(交通費、郵送代、紙代)がかかるのがデメリットです。また、手作業での回答・集計となるため、正確性に欠ける点も問題となっていました。Webサイトの活用国土交通省の調査では、2015年度からWebによるOD調査が始まりました。無作為抽出した車両オーナーに対して調査依頼(回答依頼)を送り、指定されたWebから回答をしてもらうという形式です。調査員が訪問する必要や調査票を送付する必要がないため、コスト削減となり調査期間も短縮されました。ただし、人がWebに回答を入力するため、正確性に欠ける点は上記と変わりません。デジタル機器の活用公道や高速道路に設置してある、交通状況の監視用カメラやWebcamなどを用いたOD調査です。カメラで撮影した動画を画像解析し、車両の移動距離(ナンバープレート観測)や車種などを調査します。機器を使ったOD調査は結果をデジタルに変換しやすくデータドリブンも容易ですが、機器とシステムが高価で数に限りがあります。主要な幹線道路や高速道路では活用が始まっていますが、現在のところ限定された地域のOD調査には使用できません。ビッグデータの活用一般的なOD調査とは異なり、ビッグデータを活用して個人の移動特性を把握する調査方法です。このようなビッグデータやコンピュータシミュレーションを使った調査方法は、スマートプランニングとも呼ばれます。具体的には、施設配置や道路空間をコンピュータ上で変化させ、人の歩行距離や立ち寄り箇所の数、滞在時間の変化を見て最適な施設の立地を検討することなどに使われます。機器やシステム、データ利用にコストはかかりますが、迅速で正確な予測が可能で精度も年々上がっています。位置情報データの活用GPSや携帯電話の通信基地局、Wi-Fiスポットなどを使っているスマートフォンやモバイルパソコン、ナビゲーションシステムから得られるユーザーの位置情報をOD調査に用いる調査方法です。スマートフォンやカーナビの普及により、個人の位置情報データは調査に有効なデータが得やすく、また正確性も高くなっています。位置情報データの活用は、人的リソースやWebサイト、デジタル機器などを使うOD調査に比べ、コストパフォーマンスとリアルタイム性に優れた調査方法です。OD調査は、アナログからデジタルへと年々調査方法が進化しています。デジタル化のメリットは、データの正確性とリアルタイム性の向上です。OD調査の方法も以前に比べて増えているので、コストパフォーマンスを考慮し、目的に合った調査方法を組み合わせることなども考えていく必要があります。OD調査データの活用方法上記のようなOD調査によって得られたデータは、どのように活用されているのでしょうか? 最後に、調査データの活用方法をご紹介します。観光地や商業施設における来店傾向の可視化広い範囲での自動車の流れと特定地域の人の流れを組み合わせて分析することで、観光地や商業施設に人が来店する傾向を可視化できます。従来は広告を配信したあとに、実際にどれくらいの人が観光地や商業施設に来たのかは単純に来客数をカウントするしか方法がありませんでした。OD調査の結果と位置情報データを組み合わせれば、広告の配信を受けた人がどれだけ来店したのか、広告の効果を含めて把握できます。災害やイベント時の交通規制検討への活用位置情報データを基に人の流れを把握できれば、災害やイベント時に人が滞留しやすい場所を正確に予測できます。人が多く集まって事故につながらないように、交通規制や人流規制を行う際のデータとして活用できます。ジオターゲティング広告の配信最適化 観光地や商業施設への来店傾向を調査するために得た位置情報データは、効果的な広告配信にも利用できます。スマートフォンやモバイルパソコンの位置情報をもとにユーザーを絞りこむマーケティング方法をジオターゲティングといいますが、この手法を用いて広告やクーポンを配信します。過去に特定の場所に行った履歴からユーザーの嗜好を分析し、その嗜好に適した広告やクーポンを直接ユーザーに届けられれば、より成約率の高いマーケティングを展開できるのです。通常OD調査で得られた結果は、将来の交通需要を予測するために用いられ、道路計画や交通施策、街づくりの目的に活用されます。また人流のデータは、人の滞留がおこる場所の把握や、歩行者と車両との分離を計画するためにも利用され、都市空間や特定地域の快適さを向上させる街づくりに役立てられます。前章でご紹介したように、OD調査の方法はアナログからデジタルへと変化しています。デジタル化された情報は、他のデータとも容易に組み合わせることが可能です。今後は、今までになかったさまざまな活用方法が出てくることでしょう。【街づくり・交通・MaaS事業者向け】人流データ活用事例資料ダウンロードはコチラまとめ:位置情報データとOD調査の組み合わせがコストパフォーマンスを向上させるデジタル化が進みコストと調査期間が劇的に改善されているOD調査ですが、IT機器やビッグデータを用いた調査は、まだ気軽に手を出せるものではありません。観光地や特定の地域に絞ったOD調査であれば、位置情報データとOD調査の組み合わせが、優れたコストパフォーマンス発揮してくれることでしょう。位置情報データをうまく活用してOD調査データを収集し、理想の街づくりに役立ててください。%3Ciframe%20width%3D%22560%22%20height%3D%22315%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2F_63ZEb8bHC8%3Fsi%3D7wEzoM9TlK9K2dKC%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E